
- 高坂
- 池田さんはこれまで約10年間、ミラノと日本を行き来しながら、料理講座や執筆活動を通じて、イタリアやヨーロッパの食文化を伝えてこられたんですよね。
- 池田
- 「ええ、地元宝塚を中心に、東京や地方でもお料理の教室をやっています。ミラノにいるときは駐在員のマダムたちを中心に教えてきました。でも昨年、本拠地を日本に戻す事にしまして、従来のお教室や執筆活動に加え、大学で食文化の講義なども担当するようになりました。これからは、伝えていくことにより専念しようと思っていまして。」
- 高坂
- 興味深いですね。最近ではキッズのクラスも開講されているとか。
- 池田
- 「はい、何度か行いました。ミラノにいたころ、子供たちとお母様が一緒に参加できるレッスンをはじめてやってみたのですが、そこでは子供以上に、彼らの反応を目の当たりにした母親たちが新たな発見をすることも多くて。親子のコミュニケーションにとって、とても有意義な事だと思い、これからも積極的に行っていくつもりです。」
- 高坂
- 食卓を通してみるイタリアと日本の大きな違いは何ですか?
- 池田
- 「実は、現代のイタリアには日本とよく似た所があり、格差社会の問題などからジャンクフードの普及、甘い炭酸ジュースの摂取による子供の肥満など、共通の問題点も多いのですが、最も違っている点のひとつは、イタリアではどんな家庭でも子供の朝食はほぼ欠かさないことでしょうか。ちょっとびっくりするかもしれませんが、イタリアの朝食って甘いものが中心なんですよ。だから子供に食べさせるものも朝からチョコバーみたいなものとか、ビスケットとかなんですけどね。たとえ暑い夏でも、冷たいカキ氷みたいなものを食べさせる。それは食習慣ですから。でも欠かさないって大事なことです。日本にだって、そういう文化はあったはずなんですが・・・。それから最も違うのは、イタリアには「個食」がないところ。遅い時間まで塾に通って帰ってきて一人ぽつんとゴハン、というのはありえない。必ず食事の時間は家族が集うという、あの国では社会自体がそういうシステムになっています。」
- 高坂
- それは素晴らしいですね。
- 池田
- 「ええ。食卓を囲むというのは、単なる行為を超えて、そこに大切なコミュニケーションが生まれるし、何より食べる事について大人と子供が一緒に考える場が自然と与えられる。それって食のありかたの基本だと思うんです。」
- 高坂
- ここでもまた、子の反応から親が学ぶことが多いですしね。
- 池田
- 「そうですね。だから、今回の食育プログラムでは、親と子が食べ物を前に顔をつき合わせて「う~ん」と一緒に考えて、一緒に発見したり、一緒に驚いたりしてもらいたいです。食べ物は体を作るものですから、情報だけで判断することはとても危険です。今回、食を通じて親子で考えることの大切さ、尊さを感じていただけるような企画であればいいなと思っています。そうして、親が子に伝えるべきことを実感してもらえれば、日本からも個食って自然となくなるのでは。」
- 高坂
- なるほど。そうなれば素晴らしいですね。
- 池田
- 個人的に、神戸の西区でオーガニックに20年来携わっておられる生産者の方とも、5~6年前から関係を持ってサポートしあっています。我々としては、自分達の希望を伝えられるというメリットがあるし、農家の側でも、今後何を作るべきかの参考になる。あとは流通だけですね。せっかくいい生産者がいるのだから、その橋渡しになる流れを最後は作っていきたいです。
- 高坂
- 塚本さんはフランスの名門料理学校を卒業されて、本格フレンチとフランス菓子の講座をなさっていますが。
- 塚本
- 「はい。2000年から大阪の教室で、フランス料理とフランス菓子の講座をやっています。」
- 高坂
- とても本格的な講座ですが、最近は米粉をテーマにした講座も開いておられますね。フランス菓子なのに、米粉に着目された理由は?
- 塚本
- 「この出会いは、フランス菓子の長い経験を経て、私なりに感じた、日本の食材の潜在的な素晴らしさの発見だったんです。米粉の製造元との関係もあったのですが、私は作り手として、その素材のよさに感銘をうけました。実は米粉はフランスのお菓子でも利用する食材ではありますが、私は日本の米粉を使った講座を行っています。この米粉をつかうことによって、ロールケーキやパンをはじめ、今までと違う表情のフランス菓子に出会う事が出来ました。フランスの食文化を深く知ったことによって、逆に自分の国の素材への愛着が得られたと思っています。だから私の米粉のロールを食べてもらって、米っていいなあと、日本文化を知りたい気持ちを思い起こしてもらえたら嬉しいです。」
- 池田
- 「世界でも最近は米が見直されていますよね。米文化の国として、それを胸張っていかなきゃいけませんよね。イタリアでは最近、お米のパスタなども注目を集めていたりする。」
- 塚本
- 「米が原料だとアレルギーの子供たちにとっても味方だし、それに米粉のパンは満腹感もある。これを学校給食の新たな選択肢と考えてもらう事も出来るといいですね。」
- 高坂
- そういう試みが、日本の水田の再興に繋がったら素敵ですね。水害も減るし。過度のアメリカナイズで消えてしまった「米」のよさを、こんな意外な方向からも見直せるっていうのは、ひとつの可能性かもしれません。トータルで見た「食」という意味でとても素晴らしい。
- 塚本
- 「だからといって私は、米粉ばかりがいいと言いたいわけではないんです。作るものによって相応しい素材ってやっぱりあります。季節感なども含めて。米粉より小麦粉がベストな場合もあるし。ただ、身近にこんないいものがあるのに使わない手はない。口に入れるものも、素材にするものも、色々な選択肢を知った上で、自分で考えて選ぶべき。」
- 高坂
- TPOで考える、ですよね。これが現代の日本人はなかなか苦手。ブームに流されやすいから、その場限りっていうのが多いんですよね。
- 塚本
- 「だから私が伝えたい事は、作ってみる事の大切さ。そうすれば、おのずと自分が口に入れるものについての知識、素材を見抜く力、逆に作る人へのいたわりも感じられるはずです。 それが食の安全にもつながりますよね。私としては今回、美味しいものを食べさせるだけでなく、子供たちにも作ってみたい気持ちになってもらえたら最高ですね。」
- 高坂
- 本当にそうですね。今日はお二人とも、どうもありがとうございました。

池田 律子【CiaoRitz!(池田律子のイタリア料理教室)】
西宮市生まれ。日本航空勤務、ペルージャ大学留学を経て、現在はミラノと阪神間、東京で料理教室を主宰。著書は「イタリアのおいしい旅」。

塚本 有紀【フランス料理教室 Atelier[igrek]】
1995年渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリ本校料理コース、製菓コース修了、グラン・ディプローム取得。 トレトゥール(ケータリング)コース修了。同校アシスタントを務める。小麦アレルギーを持つ子供のために、米粉によるお菓子作りのレシピを開発。
著書、「パリ食いしんぼう留学記 -ル・コルドン・ブルーの日々-」






