
- 西原
- 今回のイベントは、食育がテーマということですが、どのようなコンセプトで行われるのですか。
- 高坂
- うわべだけではなく、大きな意味で「食育」を捉えています。一般の人に、生産者や料理人、専門家と出会って味わっていただき、そこで学んでいただくチャンスを提供したいと思っています。ただ美味しいと食べてもらうだけではなく、それぞれの食材が選ばれた理由や、選択された調理法の所以についてより知っていただきたい。各テーブルに45人の料理人を配置してデコパージュ(とりわけ)してもらうのもそのためです。
- 西原
- 面白い試みですね。では我々料理人は、提供する品について、その材料の選び方やコンセプトを知ってもらうというわけですね。やはり「日本の食材」について知ってもらうというのがテーマですか?
- 高坂
- いえ、「日本の食材」にはあえてこだわりません。どういう食材を使っていただいてもいいんです。 ただ、今の消費者の風潮として、食べ物の中身を知らないで味や外見だけを見て判断する人があまりにも増えていますよね。それはとても危険な事だと思っています。コンビニに行けば何でも揃っていて、お金さえ払えば手に入る。その後ろで物を作ることの大変さや過程を全く知らない。食材のもつ意味、背景を知らずして、食べ物までゲーム化しているという現状に問題提起したいのです。
- 西原
- なるほど。
- 高坂
- 先日、神戸アラン・シャペルの小久江シェフとお会いしたときに、「昔は何も物がなかったが、自然は沢山残っていた。」というお話がありました。「自然や親の愛情や、生産してくれる人のしんどさが身近にあったので、それに感謝ができた」というのです。実は食の安全とは、そういう感情がないと生まれてこないものですよね。今、ありがたいことに私の北丹波農園には、そういう部分を「知りたい」という人たちが集まって、少しずつ広がりができつつあります。この会でも、国内/外産品に限らず、食の源を知ってもらうことがテーマです。海外で学んできた方からは、イタリアやフランスで身につけた技術も含めて彼らのものづくりを見せて欲しい。日本人の根底にある「ものづくり」の姿を、深く考えて知る会にしたいです。
- 西原
- よく理解できました。我々としては、ただ美味しいだけでなく、素材を生かすテクニックを含めて、その食材を知ってもらう、そこから消費者に安心を感じてもらう、というわけですね。
- 高坂
- そのとおりです。 先日小久江シェフは、お二人の師匠のアラン・シャペル氏は、華やかなイメージとは違って、ふるさとの土地を愛して、淡々と地産地消に励む方だとお聞きしましたが。
- 西原
- ええ、そのとおりです。先日、丁度札幌のイベントでもシャペル氏の話が出ましてね、こんなエピソードがあるんです。彼は自分で農家に出向いて野菜を手に入れてくるのですが、ある時はとても綺麗なピカピカの野菜をもらって意気揚々と帰ってきて試作に励んでいる。でもある時は、殆んど腐ったような、使い物になりそうにもない野菜を買って帰ってくる。私が怪訝な顔をしていると、『キンゾウ、彼ら農家にも生活があるんだ。我々がいいとこどりだけしようと思うのは間違いだ、こういうものも買わないといけないときがある』といっていました。我々が2段階目の作り手として、1段階目の作り手である生産者の気持ちをいかに汲んでそれをお客様に流していくべきかという考え方を深く教えられました。
- 高坂
- 素晴らしいエピソードですね。それが一流になる人間のまともな感性ですよね。金蔵先生が、シャペル時代、日本人として意識されていた点はありますか?
- 西原
- やはり、後に来る日本人との繋がりは大切だと思っていましたね。私も音羽さんがいなかったら今の自分は無いと思っていますから。
- 高坂
- それは小久江さんがおっしゃっていたこととまったく同じですね。現代ではその感覚が薄れてきてしまっていますね。
- 西原
- それは、「自己主張」のありかたが違ってきているからでしょうね。これは私が日本社会で年を重ね、西洋を見てきて思うことですが、日本人は本来どちらかと いうと内向的で、外にいきなり飛び出すより奥深く極めることが得意な民族でした。外枠には出てはいけないという、家元の伝統のようにね。一方、西洋ではい かに「枠」から出るかが重要とされます。ただし、それでも一番大事なのは「ベース」を作ってから初めて外に出るということ。我々はフランスでそれを学ん で、まずベース そして自由を試みたものだけど、今の日本は基本ができていないところからいきなり自由を与えられているようなもので、これでは日本でも西洋でも通用するわ けはない。
- 高坂
- では、そのベースとはなんでしょうか?
- 西原
- 親が子に伝えるべきものでしょうね。何が大切か、何がいけないかを充分に教えていない。体得させれてない今の日本にはアイデンティティが足りない。
- 高坂
- 自由と平等という矛盾を考えるべきですね。
- 西原
- 私は先日、サンリオとのイベントで、子供のお菓子教室をしたんです。牛がお乳をつくってそれを我々が飲んでいて、卵は鶏から、砂糖は砂糖大根から、という素材の勉強を紙芝居で見てもらい、素材に対する感謝の気持ちを知ってもらう所から始まって、プリンを作ったのですが、包丁を使ったり、キャラメルソースつくりなど一見危険な作業もちゃんとしてもらいました。事故がおきないように大人がサポートし、気をつけてあげることで、子供たちはちゃんとやり遂げましたよ。お母さん達はハラハラでしたがね(笑) 問題は、何が正しくて何がいけないか、大人が子供に正しく伝えてあげる事なんですよ。
- 高坂
- 大事ですよね。ぜひ次回そんなイベントもご一緒にさせてください。

西原 金蔵
1953年 岡山県生まれ。1972年京都グランドホテル(現リーガロイヤルホテル)入社後、辻調理師専門学校入学。1979年 渡仏、パリ「レカミエ」にて修行。1981年 帰国後、神戸ポートピアホテル「アランシャペル」入社。 1987年 再度渡仏、ミヨネーの「アランシャペル」製菓長就任。帰国後、ホテルオークラ神戸、資生堂パーラー、舞子ビラ神戸などで製菓長を務めた後、2001年京都に「オ・グルニエ・ドール」オープン






